「健康トピックス」

北國新聞 ”健康ノート”、”丈夫がいいね”、”健康よもやま話”
金沢有松病院分掲載中

〜転倒のほとんどは屋内で〜


 あられが降った昨年11月下旬、80代男性が金沢有松病院(金沢市)に救急搬送されてきた。自宅で転んで右脚を床に打ちつけ、痛みで一歩も動けなくなったという。
 コンピューター断層撮影(CT)で調べると、右脚の付け根の大腿骨が折れていた。男性は、普段は気にも留めないような、ちょっとした段差にけつまずいたと振り返り、「まさか家の中で骨折するとは思わななんだ」と意外そうな表情を浮かべた。
 男性が言うように、冬に骨折する原因といえば、雪道や凍った道で滑って転んでしまうイメージがある。しかし、同病院整形外科の近藤毅医長は「お年寄りが転倒してけがする場所は、ほとんどが屋内です」と指摘する。

■筋肉こわばる
 特に冬季は、転びやすい要因が重なる。
 気温が下がると4枚、5枚と着こんで厚着になり、薄着の時より動きにくくなる。さらに寒さで血流が悪化し、筋肉がこわばって体の動き自体も鈍くなる。その上、室内には暖房器具の電気コードや、電子カーペットによるわずかな段差があり、つまずきの原因になってしまうのだ。
 環境的な要因はすぐに改善できる。カーペットを部屋全体に隙間なく敷く、電気コードはまとめるなど、転ばぬ先の用心をしておきたい。
 厚生労働省のデータでは、大腿骨を折った人の半数近くが、その後、寝たきりとなってしまっている。動けない日が長いほど、筋力は低下していく。寝たきりにならないためにも、一日も早く歩き始めることが大切となる。
 先ほどの男性も、骨折した箇所にボルトを埋め込んで固定する手術を受け、2日後には少しずつ歩けるようになった。ここから元通りに歩けるよう、1〜3カ月ほどリハビリを行なうことになる。
 冬の北陸において、筋力低下は深刻な問題である。近藤医長は「脅すわけではないが、よくお年寄りには、春の雪解けとともにおむつになっていないように、と注意を促します」と話す。
 寒かったり、足元が悪かったりする冬は、どうしても家に閉じこもりがちになる。家の中でいくら歩き回っていても、筋力は確実に落ちていく。年末まで元気に歩いていたお年寄りが、春になると動けなくなってしまうというケースは多いという。筋力低下は転倒の原因にもなる。

■年齢は関係ない
 近藤医長は「足腰に痛みがあり、検査で異常が見つからないお年寄りの多くが、筋力の衰えによるもの」と指摘する。足腰を支えていた筋力が衰え、骨に負担が掛かって痛みを感じているという。
 舞台で活躍した女優の森光子さんは、晩年まで1日150回のスクワットを欠かさなかったと言われる。「筋力を付けるのに年齢は関係ない」と近藤医長は力を込める。
 好天に恵まれた日は、家の周囲を15分程度でも歩くよう心掛けたい。雨や雪で足元の悪い日は自宅でできる体操もある。これらの運動は、寝たきりの大きな要因となっている骨粗鬆症の予防にもつながる。次回詳しく紹介する。